行政事件訴訟法の重要判例です。
この判例は「通達」が取消訴訟の対象になるかということが争点となりました。
ちょっと読みづらい判例をわかりやすく解説します。
事案
昭和35年3月8日、厚生省(現在の厚労省)の公衆衛生局の環境衛生部長が、全国の都道府県に対してある通達を出した。
この通達の背景には「創価学会」と他の宗教団体との対立があり、創価学会に入っている人の家族が亡くなったときに、お墓を管理している所が創価学会という理由で埋葬を断るという問題が全国で起きていたのであった。
それに対して厚生省は「ちゃんとした理由がないのにお墓を断っちゃダメよ」と今後の対応の方針を通達で示したのだがその通達は
正当な理由がない限り、宗教を理由に火葬や埋葬を断ってはならない
という内容だった。
しかし、墓地を運営している人(X)はこの通達に反対したのである。
なぜなら、Xは「お墓を運営する人が誰を埋葬するひとが自由に決めていいはずなのに、この通達のせいでそれができなくなった!」と考えたからだった。
さらにこの通達があると他の宗教に対する考えを持っている人たちが困ることとなり、Xが不利な立場に置かれるとも主張した。

そこでXは本件通達の取消を求めるうったえを提起した。
争点・結論
通達とは何か
結論
法規の性質をもたない。行政組織内部における命令にすぎないものである。

通達というのは上級行政機関から下級行政庁機関に命令したりすることなので一般の国民の権利義務を規律する法規とはちょっと性質が違うよね
本件通達は、取消訴訟の対象となる?
結論
対象とならない



取消訴訟の対象となるのは、国民の権利義務や法律上の地位に直接影響を及ぼすような行政処分とかだよ。
判旨
元来通達は、原則として、法規の性質を持つものではなく、上級行政機関が関係下級行政機関および職員に対してその職権権限の行使指揮し、職務に関して命令するために発するものであり、このような通達は右機関および職員に対する行政組織内部における命令のすぎないから、これらのものその通達に拘束されることはあっても、一般の国民は直接これに拘束されるものでなはなく、このことは通達の内容が法令の解釈や取扱いに関するもので、国民の権利義務に重大なかかわりをもつようなものある場合でおいても別段異なるところはない。
・・・本件通達は従来とられていた法律の解釈や取扱いを変更するものではあるが、それはもつぱら知事以下行政機関を拘束するにとどまるもので、これらの機関は右通達に反する行為をすることはできないにしても、国民は直接これに拘束されることはなく、従つて、右通達が直接に上告人の所論墓地経営権、管理権を侵害したり、新たに埋葬の受任義務を課したりするものとはいいえない。
・・・そして現行法上行政訴訟において取消の訴の対象となりうるものは、国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に法律上の影響を及ぼすような行政処分等でなければならないのであるから、本件通達中所論の趣旨部分の取消を求める本件訴は許されないものとして却下すべきものである。
まとめ
通達は上級行政機関が下級行政機関等に対して命令するものなので、一般の国民は直接これに拘束されることはないものです。
取消訴訟は国民の権利義務、法律上の地位に直接具体的に法律上の影響を及ぼすような行政処分等なので、今回の通達に関しては訴訟の対象にはなりません。
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